「老舗の流儀 虎屋とエルメス」黒川光博、齋藤峰明

 

老舗の流儀 虎屋とエルメス

老舗の流儀 虎屋とエルメス

 

 2017年1冊目

尊重し合っているお二人の対談形式のため、

どうしても説教っぽく聞こえてしまうし、矛盾しているような部分もあった。

でも、齋藤さんのインタビュー記事を見かけたとき、その気品ある佇まいに驚いたことをよく覚えている。

その佇まいこそが全てを物語っている。

齋藤:エルメスは、流行ではないし、ファッションでもないし、ブランドですらないと思っています。(p.16)

齋藤:どうやって新しい商品を世に送り出してきたかを説明すると、年に二回、大きな展示会を行うのです。職人たちが作った新商品を20万点ほど並べるのですが、徹底して吟味していくので、半分以上は商品化に至らない。最終的に、パリのフォーブル・サントノーレ本店に並ぶのは、ほんの2割程度。選び抜かれた一握りの商品だけが、新たに世に出ていきます。効率で言えば決して良くはないのですが、「長きにわたって愛用してもらいたい」という意思を貫き、こういうものづくりを続けてきたのです。(p.17) 

黒川:どこの地域のどんなお菓子屋さんでも、菓子の存在価値は土地とのつながりにあることを、身をもって理解してくれたのが何より嬉しかったですね。(p.23) 

齋藤:機械生産によるのではなく、「職人の高度な手仕事」 を守り続ける道を選ぶとともに、車が主たる移動手段になる中で、必ず求められる「バッグ」という領域に踏み込んだ。つまり、生業を馬具ではなく、「職人の高度な手仕事」に置いた。今でこそ、正しい判断とされていますが、当時を振り返ると、周囲は工業化一辺倒だったわけですから、職人の手仕事を選んだのは、いわば時代に逆行することです。(p.24)  

ノキアン協会(The Henokiens。1981年に設立された老舗企業の国際的な団体で、創業以来200年以上の社史、創業者の子孫が現在でも経営に関わっていること、現在でも健全経営を維持していることなどが加入資格。パリに本部があり、イタリアやフランスを中心に欧州8か国と日本で46社が名前を連ねる。日本企業では虎屋のほか、法師、月桂冠岡谷鋼機赤福ヤマサ醤油、材惣木材、中川政七商店の8社が加盟)(p.130)

 齋藤:フランス人にとって、ディズニーランドは、子供を連れて行って遊ばせる場所以外の何ものでもない。フランスのディズニーランドは大赤字で、本社が何千億円かを投入して何とか盛り返そうとしています。(中略)この日本人のノリ自体、僕は決して嫌いじゃないのですが、果たして日本人にとって、そこまでディズニーランドは大事な存在なのか。そもそも、日本人が楽しいこととは何なのかについて、考えてしまいました。(p.155)

今日本では非日常にまつわる消費が活発だけれど、この着眼点は盲点だった。確かにこれは、日常が楽しめないから非日常に走る、とも言えるのかも。「自分一人で時間を潰すことができる能力を教養と呼ぶ」と言った中島らものことを思い出した。

齋藤:日本は、日常生活をきちんと営んでいくことを、大切にした方がいい。繰り返しになりますが、そこに第三者が価値を見出しているのですから。(p.204)

拡大路線はもう終わり、真摯にものづくりに向き合う、これは確かに分かっていることだけれど、今は20世紀的消費社会が持続社会に変わりつつある過渡期。構造的問題に屈せずどこまで踏ん張れるのか。足を引っ張り続ける企業の行く末は。